以前、ダム構造の原則について記事にしていました。



今回は、その中に記述されている”コンクリートダムの安定性”に焦点を当てて説明します。

河川管理施設等構造令に示されたダム構造の原則は以下の通り。
  1. ダムの堤体及び基礎地盤(これと堤体との接合部を含む。以下同じ。)は、必要な水密性を有し、及び予想される荷重に対し必要な強度を有するものとするものとする。
  2. コンクリートダムの堤体は、予想される荷重によつて滑動し、又は転倒しない構造とするものとする。
  3. フィルダムの堤体は、予想される荷重によつて滑り破壊又は浸透破壊が生じない構造とするものとする。
  4. ダムの基礎地盤は、予想される荷重によつて滑動し、滑り破壊又は浸透破壊が生じないものとするものとする。
  5. フィルダムの堤体には、放流設備その他の水路構造物を設けてはならない。
下線太字のところがコンクリートダムに関係する部分。
これはつまり、下に示す3種類の安定性を満たすということになります。

①滑動に対する安定性
②転倒に対する安定性
③堤体の破壊に対する安定性

コンクリートダム安定三要素

堤体にかかる様々な荷重を考慮して、①~③の状況が生じないようにダムの形状を決定します。
なお、安定計算に使用する荷重についても構造令で規定されています。
  • W ダム堤体の自重
  • P 貯留水による静水圧の力
  • Pe 貯水池内に堆たい積する泥土による力
  • I 地震時におけるダムの堤体の慣性力
  • Pd 地震時における貯留水による動水圧の力
  • U 貯留水による揚圧力
  • T ダムの堤体の内部の温度の変化によつて生ずる力(アーチの場合は見込む)

さて、先に結論をいうと、この①~③のうち、基礎岩盤が密接に関係しているのは”①滑動に対する安定性”です

なぜかというと、
”②転倒に対する安定性”は、「ダム上流端に引っ張り応力が発生しない」という基準で安定性を評価します。
したがって、ダムの重心がどこにくるかという問題で、構造令に付随する施行規則ではコンクリートダムの各ブロック(一般的には1ブロック15m)で堤体の重心が真ん中1/3に収まるようにすれば良い(上流端に引っ張りが生じない)ということになります。
一応、イメージを添付します(文字が手書きで汚い・・・スミマセン)
転倒の絵
”③堤体の破壊に対する安定性”は文字の通りコンクリート部分の破壊の話なので、岩盤には関係ありません。

②③に対して、①滑動に対する安定性は下図のような状況になります。
滑動の絵文字入り
貯水などの応力により貯水池側からダムが押されることで、堤体と基礎岩盤にせん断応力が働き、ダムを滑動させようとしている状態です。

この図で、もし仮にダムが滑動したら、どの面で滑るでしょうか?
おそらく、岩盤とコンクリートの接着面から下の”岩盤側”になると予想されます。

なぜかというと、コンクリートは硬く高いせん断強度を持っています。
また、人工物なので割れ目も劣化もないことから、強度にムラがないです。

一方、岩盤は割れ目や風化・変質などの劣化がなければコンクリートを凌駕する強度があるかもしれませんが、実際はそんな理想的な岩盤はありません。
せん断応力を受けると割れ目や劣化部などの弱いところを使って岩盤が破壊、滑動すると考えられます。

したがって、岩盤の強度は”岩石そのものの強度”ではなく、”割れ目や劣化も含めた岩盤としての強度”として設定する必要があります
ですので、岩盤の強度の等級を表す岩級区分それぞれに対応する”せん断強度”が地質調査の結果をもとに各ダムで設定されています。

もちろん、構造令に付随する施行規則ではコンクリートダムの①滑動に対する安定性を満足するための基準値が定められていて、安全率は4以上とされています。
つまり、日本にあるコンクリートダムは、満水時(実現できる最大のせん断荷重)の4倍の荷重を受けるまで滑動しないということになります(理論的には)。

斜面対策などで求められる安全率は高くても1.5。安全率4は超高い。
ではなぜ安全率が4以上とされているかについては非常に長い話になるのでまたそのうち・・・(書くかな?)。

とにかく、とっても安全に安全にダムは設計されているということです!